パレスチナの平和を考える会

再び、毎日新聞の記事についての質問

経緯

毎日新聞 2006年11月1日朝刊に、「武装勢力幹部が裸で逃走 イスラエル軍急襲で」という記事が掲載されました。この記事は、以前、当会が問題とした記事を書いた樋口直樹記者の後任にあたる前田英司記者によって書かれたものです。

エルサレム支局への着任して間もない時期に書かれた記事であり、まだ適切な情報源へのアクセスなど、不慣れなこともあっただろうという点を差し引いたとしても、あまりに稚拙な記事であるということにとどまらず、パレスチナの人々がおかれている現実を歪めて多くの人々に伝えるというマイナス効果を是正する必要があると考え、あらためて質問状を毎日新聞のお問い合わせフォームから送りました。

以下、質問状の内容です。

質問

毎日新聞社 御中
エルサレム支局記者 前田英司 様

私たちは、「対テロ戦争」の名を借りてイスラエル政府が行ってい るパレスチナ占領支配の状況を深く憂慮する者です。

さて、現在、難民キャンプを含めたパレスチナ占領地にイスラエル 軍が軍事侵攻し、抵抗運動の活動家に対する熾烈な暗殺作戦を行っ ていることが問題解決への大きな障害になっていることは貴紙もご 存知のことと存じます。

このような深刻な状況において、貴紙が11月1日付朝刊において 以下のようなニュースを配信されたことに対し、私たちは、一読者 として、また中東の平和を願う一市民として、深い失望と憤りを禁 じ得ません。

毎日新聞 2006年11月1日朝刊

武装勢力幹部が裸で逃走 イスラエル軍急襲で

【エルサレム前田英司】イスラエルの刑務所で一生を過ごすより人 前で裸体をさらす方がまだまし。

米に本部があるインターネット新聞「ワールド・ネット・デイリー 」は10月30日、シャワーの最中にイスラエル軍の急襲を受け、 裸のまま難民キャンプ内を走って拘束を免れたパレスチナ武装勢力 幹部の「逃走劇」を伝えた。幹部は「次からは服のままシャワーを 浴びる」と誓ったという。

この幹部はパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハ系の武 装集団アルアクサ殉教者団のメンバー。「恥ずかしい」ために匿名 を条件に詳細を語った。

それによると、ヨルダン川西岸の難民キャンプの両親宅で10月 下旬のある夜、シャワーを浴びていたところ「兵士だ」という叫び 声を聞きイスラエル軍に急襲されたことに気付いた。裸のまま窓か ら脱出。屋根伝いに通りに出て、約200メートル先の知人宅まで 走って逃げた。「前方に人がいる時は前を、いない時は前と後ろを、 両手で隠しながら走った」と述べた。

この幹部はイスラエル軍の最重要手配リスト中の一人といい、 「裸で走り回って数日間、周りから変な目で見られるか、(拘束さ れ)尋問を受けて一生を刑務所で過ごすか。オレは前者を選ぶ」と 話したという。

以上が貴紙の報道の内容です。

今回の記事のもとになっている「ワールド・ネット・デイリー」の 記事「Embarrassed terrorist scampers naked to elude capture」 を見ると、軍事侵攻の行われた正確な日にちはいつなのか、侵攻さ れた難民キャンプは西岸地区に19あるキャンプのうちどこなのか、 容疑者は誰で、どのようにインタビューをしたのかといったことが 一切書かれていません。

この記事は、事実を伝えるというよりは、イスラエルによる占領と 軍事侵攻、暗殺作戦の違法性と非人道性を覆い隠し、そのなかで暮 らし、抵抗するパレスチナ人や、公衆の面前で裸体をさらすことが 深刻なタブーとされているイスラーム社会を揶揄することを意図し ているとしか考えられないものです。

今回貴紙は、この「ワールド・ネット・デイリー」に書かれている ことを要約しただけの記事を掲載されたわけですが、私たちは、そ もそも、ここで描かれている事件がどこまで事実にもとづくものな のかさえも非常に怪しいものであると認識しています。

この記事を書いたアーロン・クレインという記者は、カハという極 右シオニストグループを擁護する記事を書く確信的シオニストであ り、これまでにも捏造記事が問題とされたことがあるような人物で す。そして、「ワールド・ネット・デイリー」自体、有名な親イス ラエル右翼のメディアであり、私たちは、少なくとも貴紙が引用・ 参照するような信憑性のあるメディアではないと考えています。

以上の認識にもとづき、以下の質問・要望をさせていただきます。

質問1.貴紙は、以下の事実を明確に認識した上で、今回の記事を 掲載されたのでしょうか?

1)イスラエルによる、東エルサレムを含む西岸地区・ガザ地区の 占領が国際法違反であること。
2)難民キャンプを含めた暫定自治区にイスラエル軍が軍事侵攻し、 抵抗運動の活動家に対する逮捕・暗殺作戦を繰り返していることが 国際法違反であり、中東和平の大きな障害となっていること。

今後、貴紙が中東和平問題を扱われる際には、占領の違法性を隠 蔽しない、公正な記事の執筆・掲載をお願いしたいと思います。

質問2.貴紙はこの記事を掲載するに当たって、事実関係の確認を されたのでしょうか? 貴紙は、今でもこの記事に書かれた内容が 事実に即したものであると認識されているのでしょうか?

もし、そうでないのであれば、訂正記事の掲載をお願いします。

質問3.貴紙は、今後も「ワールド・ネット・デイリー」の記事か らの引用を続けるつもりなのでしょうか?

今後の占領地における取材については、記者自身が現場に赴き、 被害当事者であるパレスチナ人自身の声を直接聞くことによって、 占領の本質に迫る報道をされることを、一読者として強く期待しま す。

以上、お忙しいと思いますが、よろしくご返答をお願いいたします。 なお、この質問状は「パレスチナの平和を考える会」のメンバーお よび趣旨を共有する諸個人が話し合い、作成したものです。
この質問状と回答は公開を前提としていることをご了承下さい。

(回答をお寄せ頂く際に、もし必要であれば、どの部分が公開可能 な「回答文」なのかを明記していただければと思います)

2006年11月20日
パレスチナの平和を考える会 役重善洋 ほか、有志


この質問状に対して、1ヶ月以上経っても返事がなかったため、催促のメールも送ったのですが、今のところ(2007年2月3日)、やはり何の返答もありません。誠意ある回答を期待します。

パレスチナの平和を考える会