2009年4月4日
「平和と繁栄の回廊」が占領政策、とりわけ違法入植地存続を促進する危険等について
2006年7月に小泉首相が提案した「平和と繁栄の回廊」構想の主要プロジェクトとして、2007年3月から、パレスチナ西岸地区のヨルダン渓谷において、「持続的農業技術確立のための普及システム強化」、開発調査「ヨルダン渓谷水環境整備計画」、同「農産物加工・物流拠点整備計画」の3プロジェクトが進められており、「水環境整備計画」および「農産物加工・物流拠点整備計画」については、フィージビリティ・スタディが終了し、今年の「早い時期」に農産業団地の基礎インフラ整備に着手することとなっている。
「回廊構想」については、2007年7月にODA政策協議会で議題に取り上げており、また、同年11月には、ヨルダン渓谷住民ファトヒ・クデイラートさんを交え、「パレスチナの平和を考える会」メンバーと外務省中東アフリカ局や国際協力局のスタッフとの意見交換の場を持った。それから、1年以上が経過し、これまでのフィージビリティー・スタディー等の結果を踏まえ、これまで、私達やパレスチナのNGOが繰り返し懸念を表明してきた点、すなわち、本構想関連プロジェクトがイスラエルの占領政策、とりわけ入植地の産業に直接的・間接的に関与することになる危険性について、あらためて外務省の見解を伺いたい。
1.イスラエル企業、とりわけ入植地関係企業のプロジェクトへの参入や占領地における事業形成が占領や入植地、検問所や壁建設による封鎖を正当化することになる恐れがある。またそのことが国際法に抵触する可能性がある。
⇒「外務省への事前質問」の3.4.5.6.7に関連
2.事業形成のプロセスにおいて妥当性を欠いている可能性がある。すなわち現地住民や現地のNGOなど、必ずしもパレスチナ自治政府と意見が同じではなかったり、回廊構想に批判的な意見表明※をしているステークホルダーの声を踏まえた上で事業形成を行っているかどうかについて疑問がある。
⇒「外務省への事前質問」の1.2.4.7に関連
3.民主化や人権配慮の点で問題がある。すなわち「回廊構想」反対者に対する政治的な弾圧や脅迫が報告されている。
⇒「外務省への事前質問」1.に関連
※この間、「回廊構想」に対する厳しい批判が内外から出ている。
A futile endeavour
Azzam Tamimi, Guardian, 15 March, 2007
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2007/mar/15/whatawasteoftimeandmoney
The Jordan Valley, Land and Self-Determination
AL-HAQ, 30 March 2007
http://www.alhaq.org/etemplate.php?id=301
The Japan International Cooperation Agency's development proposals
for the Jordan Valley
Stop the Wall Campaign, November 2007
http://stopthewall.org/enginefileuploads/jica_30_nov_07.pdf
Blair's misguided economic optimism
Adri Nieuwhof, The Electronic Intifada, 27 December 2007
http://electronicintifada.net/v2/article9180.shtml
とりわけ、2007年11月14日にヨルダン渓谷地域の9つの自治体首長の連名で批判声明が出されたことは本計画の意義の根幹に関わることだと考えられる。
上記の自治体首長による批判声明に対して、いかなる対応を行ったか? 他に外務省・日本政府に対し、パレスチナ人からの批判が寄せられるケースはあるか? あるとすれば、どのような内容で、どのような対応を行ったか?
パレスチナ自治政府によるハマース等の対抗勢力に対する政治弾圧が激化しているとの報告が人権団体等によって多く報告されている。「回廊構想」について批判した活動家が脅迫電話を受けたり、自治政府筋からの政治的圧力を受けたとの話を聞いている。イスラエルとの協力・信頼醸成を柱の一つとしている「回廊構想」に対して、パレスチナ人の側から批判の声が出ることは、当然予想できることであり、こうした動きに対し、政治弾圧・脅迫といった手段に訴えないよう、日本政府として自治政府に要請したことはあるか?
「パレスチナ自治区ヨルダン渓谷農産加工・物流拠点整備計画F/S調査(フェーズ1)」の業務実施契約書(2007年3月13日付)の特記仕様書第6条では、以下のように述べられている。
本件の調査対象となるヨルダン渓谷地域には、イスラエル軍が軍事閉鎖地域(Military closed area)と称して管轄する地域、また、右に加えてイスラエル入植地とこれらが所有する農地が多く存在する。これらの地域はパレスチナ人がアクセス権を有しない地域であり、国際法上はイスラエルが不法に占拠しているとされる地域となっている。これらの地域の入植者及び入植地関係者が本件の直接裨益者となることがないように十分留意することが求められる。
しかし、F/S調査の前段階の「ジェリコ地域農業開発プロジェクト形成調査(工業団地(流通・輸出振興))」および「同調査(農業・農産物加工)」のコンサルタント役務提供契約書(2006年10月25日付)の付属書「業務担当事項等及び計約金額内訳書」の「1−2 業務担当事項等」のなかには、以下のような記述がある。
オ 「パ」、イスラエル間の今後の二国間貿易の可能性の確認を行う。
(ア)「パ」PALTRADE(Palestine Trade Center)、イスラエルAGRESCO社から二国間貿易の現状を聴取し、双方の今後の商業的連携の可能性について情報を収集する。
カ 「我が国協力の方向性の確認を行う。
(ア)上記調査、情報収集を通じて、我が国協力の方向性を提案する。
このAGRESCO社は、ヨルダン渓谷地域における違法イスラエル入植地における農産物の多くを扱っている企業であり、明白な「入植地関係者」である。2006年10月段階ではAGRESCO社を含めた二国間貿易の可能性について、「我が国協力の方向性」が検討されるとなっているが、その情報収集の結果、および「我が国協力の方向性」に関する「提案」のそれぞれについて、情報開示していただきたい。
また、2007年3月段階では、イスラエル入植地の違法性が明確に認識されているようであるが、ここでの「入植地関係者」のなかには、AGRESCO社およびその他入植地産業に関わるイスラエル企業は含まれるのか、お答えいただきたい。
同じく、「パレスチナ自治区ヨルダン渓谷農産加工・物流拠点整備計画F/S調査(フェーズ1)」の業務実施契約書(2007年3月13日付)の特記仕様書第6条では、以下のように述べられている。
ヨルダン渓谷においては彼ら[入植者]の有するリソースは無視できない規模であることから、パレスチナ、イスラエル双方の合意が得られれば、参考として彼らの有する産業の種類及び商品の流通・販売ルート当の概要について調査することとする。
しかし、同F/S調査最終報告書(2007年9月)のなかには、入植地についての記述が一切見られない。入植地に関する調査について、パレスチナ、イスラエル双方の合意は得られたのか、そして、結果として調査は行われたのか、行われたのであれば、その結果が報告書のなかにどのように反映されているのかについて、お答えいただきたい。
同報告書要約の「投資環境‐フリーゾーン」の項目には、以下の記述がある。
自由貿易協定は、他国にとってパレスチナが魅力的な投資対象となるために有効である。現行PIEFZA法はフリーゾーン(自由貿易地区)を規定しているものの、実際の輸入政策はイスラエルのコントロール下にあるため、同法の実効性は担保されていない。パレスチナ自治区内において真にフリーゾーンを設けるためにはイスラエルの協力・合意が必要である。
ここでの「他国」にイスラエルは入るのか? すでにイスラエルへの経済的依存が著しい被占領地経済の自立を促すのであれば、イスラエル企業を投資者から除外する必要があるのではないか? とりわけ、入植地の産業に関わるイスラエル企業が投資者となる場合、入植地産業と農産業団地との共存関係が生じることとなり、農産業団地自体の国際法上の合法性が問われることとなる。たとえば、AGRESCO社が本計画の投資者となる可能性はあるのか? 報告書のなかには、こうした点について検討した形跡が見受けられないが、本計画のチームのなかに国際法の専門家はいないのか?
「ヨルダン渓谷農産加工・物流拠点整備計画調査(フェーズI)」最終報告書要約(2007年9月)の「産業開発戦略‐投資環境の改善」においては、以下のような記述がある。
移動制限の緩和を図るためには、工業団地に関連する物流について、イスラエルと特別な合意を図ることが必要である。パレスチナ自治区とイスラエルの領域境界で行われているバック=トゥ=バック(積み荷の積み替え)の手間を省くことが出来れば、時間短縮及び輸送費用節約の面で大きな緩和措置となりうる。
ここで「パレスチナ自治区とイスラエルの領域境界で行われているバック=トゥ=バック」とあるが、ヨルダン渓谷地域と他の西岸地区、とりわけ東エルサレムとの間にある検問所の違法性も併せて問われるべきではないのか? さらにガザ地区への輸出も言及されるべきではないのか?
西岸地区、とりわけ東エルサレムの市場は、本来、ヨルダン渓谷の農業にとって中心的な位置を占めるものであり、外国への輸出と同等の重要性がおかれるべきである。イスラエルによる移動制限によって、中東和平のための重要課題である、東エルサレムを含む西岸地区とガザ地区の一体性が著しく損なわれている現状に対し、本計画はより意識的にパレスチナ人の経済の本来的な一体性を保障する方向をめざすべきだという認識はあるのか?
上記「産業開発戦略‐投資環境の改善」では、以下の記述が続く。
工業団地のセキュリティ・チェックを国際的な監視体制の下に第三者(例えば、ヨルダンの民間法人)に委任できるようになれば、セキュリティ体制における客観性・効率性の向上が期待される。
また、英文報告書(main report)の4-5ページには、次のようにある。
It is hoped that free movement of cargoes from and to the industrial estates should be reactivated in the near future. The issue is closely related to the security concern of Israel. One option to solve this issue would be employment of security companies belonging to a third party or country. A similar method is identified at the Karni crossing point where a European company monitors passage of cargo. Turkey has shown its willingness to advance into industrial estates in Palestine primarily because it is interested in the preferential treatment (i.e. no quota) given to Palestine in trade agreements with the USA, EFTA and the Arab League of Nations. Turkey dispatched its delegation to Israel and discussed the issue of employment of its security company provided that it brings private investors to industrial estates in Palestine. This issue is now under examination by the Israeli side. This example might be worthwhile for consideration.
ここで、工業団地のセキュリティ・チェックについての国際的な監視体制についてヨルダンとトルコの名が挙がっているが、この件について具体的な進展はあるのか? ここで問題となるのは、工業団地は西岸地区内に作られるのであって、例えば、検問所の国際的監視体制とは議論のレベルが異なる。工業団地の治安管理をなぜパレスチナ自治政府の治安機関が行うことができないのか? 第三国が西岸地区内における治安管理に関与するということは、パレスチナ人の独立国家にむけた自決権に関わる重大な政治的な意味を持つという認識はあるのか? このことについては、自治政府のみならず、ハマース等の他の政治勢力の意向も考慮すべきであると考えるが、この点についての見解も伺いたい。
「ヨルダン渓谷水環境整備計画調査」のファイナル・レポートが出ているが、イスラエル入植地による水資源の消費についての調査が行われていない。それどころか、一言も入植地の問題について触れられていない。ヨルダン渓谷地域における水資源の多くを消費している入植地についての調査が行われていないのはなぜか?
また、同レポートの「提言」のなかに「既存データの補足調査実施においても、イスラエル側から調査の許可がおりない事態に直面した」との記述があるが、この不許可の理由は何か?
1.事前質問に対して、それぞれの項目について、できる限り詳細な回答を事前に書面でいただきたい。
2.協議会の冒頭で「回廊構想」の進捗状況について、簡潔な報告をお願いしたい。
パレスチナの平和を考える会(Palestine Forum Japan)