パレスチナの平和を考える会

「イスラエルとの経済交流と同国のパレスチナ被占領地における国際法違反・戦争犯罪の抑止に関する質問書」に対する近畿経済産業局の回答と市民団体との話し合いの概要

去る10月6日(木)、パレスチナの平和を考える会および関西共同行動、ATTAC関西の3団体は、先に送付していた質問書に対する回答を受け、意見交換を行うため、近畿経済産業局との会合の場を持ちました。会合に出席したのは、近畿経産局側からは、イスラエルとの経済交流を担当する地域経済部次世代担当課の黒木課長補佐他一名、市民運動側からは8名でした。

質問書は、この間急速に進んでいる関西の財界とイスラエルとの経済交流の旗振り役をしている近畿経済産業局に対し、国連人権理事会等で議論されているイスラエルの入植地ビジネスに関する法的・倫理的リスクをどこまで考慮しているのかを問うものであり、それに対する近畿経産局の回答は、本省(経済産業省)の検討を待って対応する、という官僚的答弁に終始するものでした。

しかしながら、「明らかな入植地ビジネス」については、そのリスクについて国連決議にもとづく助言を企業に対して行うこともあるということ、今後の企業向けイベントの企画においては、(これまでしてこなかった)入植地ビジネスのリスクについての考慮を行う、といった前向きな発言もあり、今後、具体的ケースの中で、これらの発言が行動を伴ったものとなっているかどうか、確認していく必要があります。

イスラエルとの経済交流に関する質問書(近畿経済産業局宛)【PDFファイル、200KB】

なお、大阪商工会議所 に対しても同様の質問書を送付していますが、いまだに回答はありません。コンプライアンスに関する認識を疑わしめる対応といえるでしょう。
イスラエルとの経済交流に関する質問書(大阪商工会議所宛)【PDFファイル、200KB】

質問書に対する近畿経済産業局の回答と意見交換の概要

(質問1)
今年3月に派遣された「関西・イスラエル ビジネス交流ミッション」の参加企業名を開示して下さい。また、その際、イスラエル産業貿易労働省と近畿経済産業局との間で締結された「協力覚書」(MOC)の内容を開示してください。

参考:関西・イスラエル ビジネス交流ミッション
近畿経済産業局:広報
大阪商工会議所:広報
※『日刊工業新聞』(2016年2月9日付)及び『SankeiBiz』(同年4月29日付)では、
村田製作所
日東電工
シー・ティ・マシン
パナソニック
リコー
を含む関西企業9社の参加が報じられている。

(回答)
ミッション参加企業名については開示しない前提で募集しており、当局からは出せない。
MOCについては配布資料の通り。
【PDFファイル】Memorandum of Cooperation (英文/300KB)

(質問2)
この間、多くのイスラエル企業との交流を進められているようですが、それらの企業がパレスチナ被占領地における人権侵害や違法行為に関わっているかどうかについて、国連人権理事会も求めている人権デューディリジェンスに基づく調査をしたことはありますか?
また、今後する必要があると考えますか?

参考:人権デューディリジェンスについて
ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)

(回答)
質問3とまとめて回答。

(質問3)
今年3月の国連人権理事会決議(A/HRC/RES/31/36)では、各国政府が、自国企業に被占領地における違法な入植地ビジネスや深刻な人権侵害に関与するリスクについて周知することを勧告しています。この決議を受けて、これまで何らかの取り組みをされましたか?

資料:国連人権理事会決議(A/HRC/RES/31/36)Israeli settlements in the Occupied Palestinian Territory, including East Jerusalem, and in the occupied Syrian Golan

(回答)
まず、人権ドゥーディリジェンスについては、調査は行っていない。あくまで企業の判断に基づいて実施すべきものと理解している。したがって、企業が人権ドゥーディリジェンスについてどういった活動を行っているかについては、当局として個別には把握していない。

人権理事会決議の内容については、日本政府の対応については承知している。今後の対応については検討中。

(再質問)
覚書締結の際に外務省との間で何らかのやりとりはしているのか?

(回答)
現時点では分からない。本省に確認する。
※10月31日に次世代産業課に電話で確認したところ、覚書の文面は事前に外務省中東第一課にも照会していたが、入植地ビジネスに関する国連人権委員会の決議との整合性に関する議論はしていないとのこと。

(質問4)
3月に行われた「関西・イスラエル・ビジネス交流ミッション」について、『日刊工業新聞』は「モノのインターネット(IoT)や、ロボティクス、サイバーセキュリティーをはじめ革新的なハイテクベンチャーが多いイスラエル企業と関西企業が連携し、相互補完関係を築くことでイノベーションにつなげたい考えだ」と報じています(日刊工業新聞: 2016年2月9日)。しかし、こうした分野の技術開発は、パレスチナ人に対する長年にわたる占領支配の中で培った軍事・セキュリティ技術と表裏一体のものであることはよく知られています。パレスチナ人に対する日常的な人権侵害や殺戮を背景とした技術の売り込みに協力することに関して、どのようにお考えでしょうか?

(回答)
質問5とまとめて回答。

(質問5)
イスラエル企業と日本企業との交流を進めるにあたり、パレスチナにおける人権侵害や国際法違反、戦争犯罪を助長しないために、これまでどのような配慮をされてきましたか?

とりわけ、年内にも締結が予定されているという日本・イスラエル投資協定に関し、パレスチナにおける人権侵害や国際法違反、戦争犯罪に関わる企業活動を裨益対象としないための項目を設けることについて、これまでの交渉の中で議論されていますか?

また、そうした項目の必要性についてどのように考えられますか?

(回答)
イスラエルは中東のシリコンバレーと言われ、スタートアップ、ベンチャー企業が多く、IoTとかロボット、セキュリティ、ハイテク分野で非常に強い面をもつ。日本に足りない技術を持っており、日本以外のグローバル企業が250社以上がR&D(研究開発)の拠点をイスラエルに設けている。

そうした中、昨今の首相、経産大臣の相互訪問を踏まえ、関係強化に向けた取り組みが活発化してきており、イスラエルの先端技術分野とのビジネス交流を関西で行うことで、我が国の国際競争力を高めることを目指している。

懸念されている入植地における企業活動を行っている日本企業は私どもとしては承知していないが、今後、企業がそういうことをやろうとしていることを知った場合、こうした決議に基づく助言は行いたい。

投資協定については交渉中のため、内容については答えられない。

(再質問)
入植地ビジネスといっても単に入植地で活動している企業と提携するとか、入植地で何らかの企業活動するといった問題だけではない。国連人権委での議論では、パレスチナ人の家屋破壊に使われる機器の提供や、入植地で使用されている監視カメラ等のセキュリティ機器の提供、それに関する取引など、かなり広範囲にわたるビジネスが対象となっている。パッと見てすぐに問題だと分かるものとは限らない。どうやって実態を把握しようと考えているのか?

(回答)
政府全体として対応を検討中で、それが出れば我々もそれに従って把握することになる。明らかに蓋然性が高いもの、入植地ビジネスをはじめとしたものは、それが分かれば近畿経産局としてアドバイスをする。

(再質問)
例えば、入植地で生産されていた製品で ソーダストリーム という商品がある。2011年から関西の シナジートレーディング という企業がイスラエルのソーダストリーム社と提携して国内でも販売していた。これは国際的な批判を受けて、昨年入植地から撤退しているのですぐに問題化するということはないが、仮に撤退していなければ、入植地で生産活動をしているという明らかな事例であり、近畿経産局として、リスクが高いといったアドバイスをする可能性は十分あったと考えて良いか?

(回答)
明らかに入植地で生産している商品を、関西の企業が扱っているということであればアドバイスをする可能性はある。

(再質問)
定期的にイスラエル関係の企業向けのイベントをこれまでしてきているが、そうした動きの中で、国連人権委で指摘されている法的・倫理的リスクについての議論はしたことがあるか?

(回答)
ない。

(再質問)
人権理事会の決議について知っていたにもかかわらず、近畿経産局主催の活動の中でそのことについてまったく議論していないのは問題だ。少なくとも、今後、イスラエルとの経済交流を大阪商工会議所やイスラエル大使館、西日本貿易事務所などと共に進めていく中で、人権委決議で議論されている法的・倫理的リスクについて、近畿経産局として言及していくと考えてよいか?

(回答)
はい。

【参考】
国連人権理事会におけるイスラエル入植地ビジネスをめぐる最近の動き

パレスチナの平和を考える会