特集:パレスチナにおける水問題

中東危機のなかの水問題と「私たち」

対イラク戦争の主要因として中東における石油資源の重要性が議論されているが、この地域の水資源についても、中東問題の中心課題として、もっと注目されてもよいだろう。1967年の第3次中東戦争の背景には、ヨルダン川の水をめぐってのシリアとイスラエルとの間での対立があったことはよく知られている。その後長年に渡りイスラエルはゴラン高原と西岸・ガザの軍事占領を継続し、一方的にパレスチナの水資源を国際法に反して支配し続けている。イスラエルは、占領地の地下にある滞水層から、その利用可能水量の8割以上を奪い、イスラエル領内および入植地で消費している。一方、パレスチナ人は、ヨルダン川の水の利用を禁止され、また、井戸を掘るのにもイスラエルの許可が必要とされる。その結果、被占領地のパレスチナ人は、一人当たりの年間水消費量で比べると、イスラエル人のわずか5分の1の水しか得られず、恒常的な水不足に悩まされている。93年のオスロ合意も、この状況を打開するために何ら効力を持つことはなかった。

水資源の配分に関する極端な差別がとりわけ深刻な事態をもたらしているのがガザ地区である。人口の8割以上を、イスラエル建国によって故郷を追われた難民が占めるガザ地区は、世界で最も人口過密な地域だと言われており、しかも、その土地の40%は、人口比で僅か0.6%にすぎないユダヤ人入植者によって占拠されている。近年、ガザの地下にある滞水層は過剰取水によって水位が低下し、塩水化が進んでいるが、浅い井戸からの取水しか認められていないガザ住民は、塩分濃度の高い水しか得ることができない。ガザで水道水をなめてみると、明らかに塩気があるのが分かるほどである。しかし、その一方、入植地では、水泳プールが整備され、あるいは灌漑用水としてふんだんに水が消費されているのである。

2000年9月にインティファーダが勃発すると、イスラエルはパレスチナ人に対する集団懲罰政策の一環として、意図的な断水や給水設備の破壊を進めてきた。この2年間で、ガザだけでも100以上の井戸の破壊が報告されている。2003年1月30日にガザ地区南部の町ラファで、街の60%の給水を担っていた2つの井戸が破壊され、市民生活に甚大なダメージを与えた。もちろん、こうした水資源をめぐる犯罪行為は、市民の殺傷、活動家の暗殺、家屋破壊、土地没収、移動制限や外出禁止令といった、もろもろの弾圧政策のなかのひとつに過ぎない。しかし、「爆弾攻撃」によるイスラエル人の被害とセットでごくたまにパレスチナ人の犠牲者数が伝えられるといった、なけなしの報道の裏には、水資源の収奪によって、パレスチナ人の生活全体が確実に破壊されつつあるという厳しい現実があることは、強調しておいても良いだろう。

日本政府は、1993年以降、井戸や上下水道を含めたインフラ整備を中心に、6億3000万ドルものパレスチナ支援を行っている。しかし、そうして作られたインフラが現在イスラエル軍によって毎日のように破壊されているにも関わらず、経済支援以外には、積極的にイスラエル軍の占領と暴力を終結させるためのイニシアチブを何ら取ろうとはしていない。それどころか、小泉政権は、ブッシュ米大統領による対イラク戦争政策の手放しでの支持を表明しており、相も変わらず、日本の中東政策における参照項は石油と日米同盟だけで、この地域に暮らす「人間」のことなどまるで考慮していないことを露呈している。こうした状況だからこそ、「私たち」は、一人の生活者(すなわち水消費者)としての視点を持って、パレスチナ、そして中東の人々が置かれている状況に目をむけることから、圧倒的な不正義を是正していくための努力を始めていきたいと思う。

役重善洋(パレスチナの平和を考える会)


以下の文書は、パレスチナのNGO「PASSIA」( Palestinian Academic Society for the Study of International Affairs, Jerusalem、パレスチナ国際問題研究学術協会、URL:http://www.passia.org)が作成したパンフレット『Water -The Blue Gold of the Middle East』(2002年7月)をもとに、「パレスチナの平和を考える会」が翻訳・再構成したものです。コラム「中東危機のなかの水問題と『私たち』」を除いたすべての内容は上記パンフレットの内容に基づいています。

なお、『Water - The Blue Gold of the Middle East』は、以下のサイトからPDFファイルでダウンロードすることができます。

http://www.passia.org/publications/bulletins/water-eng/

【内容】
パレスチナにおける水問題
  1. はじめに
  2. 歴史的背景
  3. パレスチナにおける水資源
  4. パレスチナにおける水消費量
  5. パレスチナの水に関する危機的課
  6. 終わりに
  7. さらに知りたい方のために:参考サイト・リンク集

1.はじめに 

中東では、パレスチナ・イスラエル紛争を中心として水資源に関する長い抗争の歴史があります。1967年の第3次中東戦争は、水資源に対するイスラエルの支配をもたらしました。この地域の水危機は単なる供給の問題にとどまりません。それは、この地域の権力構造と常にリンクしており、この構造が水を利用する者の間での不平等の背景にあります。今日まで、水供給の配分調整についての交渉の試みは、すべて失敗してきました。なぜならば、それらが平等な権利と合理的な利用原理に基づいていなかったためです。

イスラエルにとって安全保障は口実に過ぎず、実際は、水資源を支配したいという欲望こそが、パレスチナ自治政府に占領地を返したがらない主要な理由の一つなのです。

35年に及ぶ占領下での人口増加と止むことのない入植地拡張は、限られた水供給に対する負担増と、緊張した政治状況のさらなる深刻化をもたらしています。

水問題はイスラエル人およびパレスチナ人双方にとって複雑かつ重要な問題であり、それゆえに、エルサレム、国境、難民、入植地および安全保障といった、他のまだ解決されていない重要課題とともに最終地位交渉にまで先送りにされてきました。この文書は、パレスチナ/イスラエル紛争に特別の重点を置きつつ、中東の現在の水状況を明確にすることを目指すものです。

2.歴史的背景 

 1967年6月のヨルダン川西岸地区およびガザ地区の占領によって、イスラエルの水問題に対する立場は大幅に有利なものになりました。ゴラン高原の占領は、ヨルダン川のほとんどの上流に対するイスラエルの支配をもたらしました。また、ヨルダン川西岸地区の支配は、ヨルダン川および3つ主要な滞水層からのイスラエルによる取水を可能にしました。
 占領して間もなく、イスラエルは軍令92号(1967年8月15日)を出し、水資源に関する権限を地域軍司令官に移しました。軍令158号(1967年11月19日)は、新しい水利施設を許可なく整備することを禁止しました。また、軍令291号(1968年12月19日)では、占領地の水資源をすべて接収し、それらが国有財産であると宣言しました。1982年には、イスラエルの水会社メコロットが管理権を握りました。パレスチナ人の井戸は破壊され、イスラエル人用のより深い井戸があちこちで掘削され、取水された結果、水源は枯れてしまいました。1986年、イスラエルは西岸・ガザの井戸から汲み上げることのできる水の総量を10%減らしました。それによって、広範囲に水不足が起きたばかりでなく、地下水位の低下と塩分濃度の増加が引き起こされました。加えて、水道管からの水漏れによる水の損失は30%にのぼると見積もられています。
 和平プロセスにおいて、水問題は暫定的課題と考えられていました。そのなかで、パレスチナ水委員会(PWA)は、水資源の管理について権限が与えられる予定でした。ところが、イスラエルは、パレスチナ人が使える水源および水量すべてについての完全支配を継続しました。パレスチナ人が1年間に4億5000万立方メートルの水を要求したのに対して、オスロ合意では、家庭用に2860万立方メートルが認められただけでした。水の供給を増加できるかどうかは、新しい水資源が利用できるかどうかにかかっていました。西岸におけるパレスチナ人の将来の水需要は、7000〜8000万立方メーター/年(オスロ第40条)と見積もられています。
 今日、水問題の解決の障害となっているのは、一つには、その差別的な分配システムであり、二つには、オスロ和平プロセスによって、イスラエルによるパレスチナの水の利用および将来計画に対するほとんど全面的な支配が制度化されてしまったことです。

3.パレスチナにおける水資源

1)地表水

 パレスチナにとって、地域の主要な地表水システムであり、唯一年間を通じて利用可能な地表水源は、ヨルダン川とその支流です (地図ページを参照)。ヨルダン川流域の5つの当事国(地域):イスラエル、シリア、レバノンおよびヨルダン川西岸地区がヨルダン川の水を共有することになります。今日まで、ヨルダン川の水が西岸地区に到着するまでに、その75%をイスラエルが奪っています。
 ヨルダン川は、シリア、レバノンおよび被占領ゴラン高原に源流のある、3つの川から水を得てます。ハスバニ川はシリアに源流を持ち、その一部(平均1億4000万立方メートル/年)はレバノンにも流れ込んでいます。ダン川とバニアス川は被占領ゴラン高原に源流があり、どちらも、ティベリア湖よりも上流でヨルダン川に流れ込んでいます。それぞれ、年間、2億5000万立方メートルおよび1億2000万立方メートルの流量があります。ティベリア湖よりも下流でヨルダン川に流れ込む水は、自然降雨ならびに西岸・シリア・ヨルダンの地表水やワディ(雨期にのみ水が流れる谷川)、そしてヤムルーク川があります。ヤルムーク川は、シリアに源流を持ち、ヨルダンとシリアおよび被占領ゴラン高原の境界を流れ、平均して年間4億2000万立方メートルの流量があります。

 下記の表1は、パレスチナ人がヨルダン川の水利用を認められない一方で、その水の大部分がイスラエルによって使用されていることを示します。1967年以前、パレスチナ人は、140の揚水ポンプによってヨルダン川の水を利用していましたが、それらは1967年6月の占領直後にイスラエル政府当局によって破壊されたか、あるいは没収されてしまいました。さらに、パレスチナ人によって使用されていたゴル(西岸の低地帯)の広大な潅漑地は、軍事地域として立ち入り禁止となり、その後ユダヤ人入植者に与えられました。

表1:ヨルダン川の水の利用状況(単位:100万立方メートル/年)
イスラエル
計640
130上ヨルダン川(ティベリア湖よりも上流)から
420ティベリア湖の集水地から国営水輸送網によってネゲブ地方に運ばれる水
90ティベリア湖の集水地で利用される水
シリア160ヤルムーク川から
ヨルダン
計320
90ヤルムーク川から
30イスラエル・ヨルダン和平条約に基づき、イスラエルから輸送される水
(ヨルダン川から20、脱塩化水が10)
200ザルカ川及び東部ワディから
パレスチナ不許可イスラエルにより全て不許可

出典:Palestinian Water Authority.
and T.Al-Shemmeri, Application of Multi-Criteria Decision to Rank the Jordan-Yarmouk Basin Coriparians. 1996.

2)地下水

 地表水のほとんどは、ヨルダン川を除くと、ワディ(雨期にのみ水が流れる谷川)を流れる水です。ワディの水は季節に依存し、ほとんど利用することができません。一方、地下水はすべての用途における主要な水源です。中東地域の乾燥性/半乾燥性気候のため、地下水への依存は避けられず、それは経済開発における主要ファクターであると考えられています。現在、西岸・ガザ地区の地下水の約85%はイスラエルが利用しており、それはイスラエル国内での水需要の約40%に当ります。
 パレスチナはヨルダン川の水の利用を許可されていないため、地下水はパレスチナにとって唯一の水源となっています。イスラエルは、この地域のすべての帯水層を支配しており、そのうちの2つ(北東帯水層と西帯水層)がパレスチナと共有されています(地図ページを参照)。
 地下水は、地下数十メートルの浅い滞水層から得られることもあれば、地下数百メートルの深いところにある滞水層から得られることもあり、井戸(そのほとんどは1967年以前に掘られたものです)を通して取水されます。さらに、多くの自然の湧水もあり、それらは年間5000〜6000万立方メートルの水を供給し、主として農業用水として利用されています。滞水層の主たる集水地は、西岸の山岳地への降水によって補給されます(蒸発したものやワディに流れ込んだものを除く)。これらの集水地に水を補給する区域の約83%が西岸のなかにあります。表2は、これらの滞水層の集水地に流入する年間水量と、イスラエルとパレスチナによる水利用量のデータを表しています。イスラエルとパレスチナ自治政府(PA)による1995年の暫定合意では、東部滞水層の集水地で1億7200万立方メートルの年間流入量、北東部滞水層の集水地で1億4500万立方メートル、西部滞水層の集水地で3億6200万立方メートルの年間流入量が見積もられていました。ガザの沿岸滞水層への水補充の一部は、かつては、ヘブロンから流れてくるワディ・ガザが担っていましたが、イスラエルはその流れを止めてしまいました。ガザの沿岸滞水層では、年間5500万立方メートルの安全ラインを超えて、年間1億1000万立方メートルも揚水されています。

表2:イスラエルとパレスチナによる西岸地区の帯水層の利用状況(百万立方メートル/年)
帯水層年間流入量イスラエルの消費量入植地の消費量パレスチナの消費量合計
西滞水層3623401022372
北東対水層145130542150
東滞水層172(井戸から)405054144
沿岸滞水層25026000260
沿岸滞水層の内、ガザ地区5505-10110120

出典:Article 40 of the Oslo Agreement II.

 西岸の約20万2000人のユダヤ人入植者(この数字は東エルサレムに住む20万人の入植者は含んでいません)は西岸人口の9〜10%しか占めておらず、ガザの6000人の入植者はガザ人口の0.6%を占めているに過ぎません。入植地では、水泳プールや噴水のある庭園など、十分な水が享受されているのに対し、村に住む20万人のパレスチナ人は水道さえ整備されておらず、雨水や湧水、給水車などに頼るしかありません。一部のアラブの土地は砂漠化してきました。ユダヤ人入植者は、繰り返し、パレスチナ人の揚水ポンプや水道管、貯水タンクを破壊し、井戸や滞水層を汚染してきました。西岸の地下水の利用に加え、イスラエルは他に5つの滞水層を持っており、イスラエルにおける水生産量の60%を依存しています。

グラフ1:西岸地区の帯水層の利用状況(単位:百万立方メートル/年)
イスラエル人の利用が圧倒的に多いことを示すグラフ。年間イスラエル人と入植者で約5億5千万立方メートルに対してパレスチナ人は約1億2千万立方メートル

4.パレスチナにおける水消費量

 表3は中東各国における現在の水消費量の比較です。パレスチナ人一人当たりの一日の消費量が、50〜70リットル(一部の地域ではわずか19リットル)と見積もられるのに対し、イスラエル人の消費は約5倍の350リットルです。世界保健機構(WHO)の基準によると、一人当たりの最低水消費量は一日100リットルです。

※表3:ヨルダン・イスラエル/パレスチナにおける用途別水供給量(百万立方メートル/年)
場所家庭用農業工業合計
ヨルダン78739.543.5870
イスラエル67213651292166
西岸5789家庭用に含まれる146
ガザ5085家庭用に含まれる108

出典:For Jordan: Middle East Regional Water Supply and Demand
Development Study, 1998, http://www.unu.edu/unipress/unupbooks/
80859E02.htm#Hydrography; for Israel: Statistical Abstract of Israel,
No. 51, 2000; for the WBGS: PWA, Water Sector Strategic Plan, 2000.


 農業生産は、1966年度のパレスチナのGDPの24%(1980〜85でのような同じパーセンテージ)を占めています。現在は、農業生産はパレスチナのGDPの約10〜14%を占め、すべてのパレスチナの輸出品の約25%を占めます。水不足のために、西岸の耕作地の90%以上は雨水による農場法に依存せざるを得ません。対照的に、イスラエルでは耕地の50%以上が潅漑されており、農業部門はGDPの3%未満を占めるに過ぎません。

5.パレスチナの水に関する危機的課題

1)水供給の不足

 パレスチナのすべての経済部門における継続的な水不足、飲料水及び灌漑用水の需要の確実な増加は、古い井戸からの過剰揚水による地下水の枯渇と汚染の危険を増加させました。揚水量の増加は、地下水位の低下による揚水費用の増加および既存の井戸の枯渇をもたらしました。
 水が無くては工業も農業も成り立ちません。作物をつくるためには多くの水が必要とされ、野菜と果物については特に多くの水が必要です。パレスチナでは、集約農業は潅漑に依存していますが、灌漑用水が利用できる農地はごく僅かに過ぎません。
 滞水層からの揚水量が再生可能な流入量を越えてしまうと、地下水位は次第に低下します。滞水層が海水位にまで達すると、塩水の浸透が起こる可能性があり、ついには滞水層が永久的に破壊されてしまうかもしれません。これは、現在ガザで起きていることであり、ヨルダン渓谷地域でも起きている可能性があります。
 1967年の占領以来イスラエルは、新しいイスラエルの入植地および全国水輸送システムに水を供給するために西部の滞水層に多くの新しい井戸を掘削しました。また、イスラエルは1つ以上の滞水層からの取水を確保するために、特に東部の滞水層の集水地に既存のものより深い井戸を掘削しました。このことで、パレスチナ人の井戸の水質及び水量が低下し、多くの農民が水不足のために農地を放棄することを強いられました。

地下水の濫用に関わる主要な問題は以下のように要約することができます。

 同様の問題は地表水についてもいえます。ヨルダン川からの過剰揚水により、過去数十年間で川の水量が急激に減少しました。何人かの専門家は80〜90%の減少を報告しています。今日、ヨルダン川は死海の水を補充することができず、死海は徐々に、そして確実に消えつつあります。(写真は死海)
 2002年6月初旬、クネセト(イスラエル国会)の調査委員会は、今後数年以内に水供給の危機的状況は、飲料水不足の恐れが出てくるほどに悪化するだろうと述べました。

2)水質汚染

 幅広い領域の産業が水に依存しています。いくつかの産業用水については、水質はそれほど重要ではありません。しかし、産業によっては、食品産業のように、水質の高い水準を維持することが国内外の市場にアクセスするために決定的に重要になります。
 水質については、とりわけガザで問題となっています。ガザでは、過度の揚水による滞水層の塩水化や肥料の使い過ぎによる硝酸ソーダ汚染、設備不備からくる下水および砂の混入によって滞水層が脅かされています。これらの問題を解決するためには、下水の浄化が必要ですが、それには高いコストがかかります。塩水化問題は現在のところ持続可能な解決策がありません。
 西岸では、ヨルダン渓谷地域で塩水化の兆候がありますが、深い滞水層の水質は一般に良好です。地表水および浅い湧水の水質は下水の排出量によって変わります。パレスチナには下水処理施設がほとんどなく、あったとしても十分に作動していません。パレスチナ人世帯の40%未満しか下水道が整備されていません。したがって、下水は濾過漕や浄化槽に捨てられ、ヴァキュームトラックで運ばれるか、ワディに廃棄され、滞水層への環境汚染の危険をもたらしています。
 2002年6月に、イスラエル水道管理局は、沿岸滞水層から汲み出された水の約15%は飲用に適さないと発表しました。西部の山岳地の滞水層ではより良水質であることが分かりましたが、トゥルカレム〜カルキリア周辺やヘブロン周辺地域などでは、主に未処理の下水による汚染が見つかっています。

6.終わりに

 イスラエルによる、パレスチナ人の、あるいは共用の水資源(地表水と地下水)の搾取によって、パレスチナ人の水の消費量は、この地域のなかで最低であり、また、一般水準をはるかに下回るものとなっています。イスラエルによる過剰揚水はすでに脆弱な沿岸滞水層に汚染と長期的な損害を与えており、イスラエルにおける水需要の増加は、西岸地区の滞水層からのさらなる過剰揚水、そして、そこに住むパレスチナ人に対する、より過酷な水不足をもたらそうとしています。地下水源への損害は取り返しのつかないものになるかもしれず、すでに地域によっては何世紀にもわたる汚染と塩水化が予想されています。公正で信頼できる調整がなされなければ、パレスチナの水状況は破滅的になり、この地域における水資源の分配に長期的な影響を及ぼすことになるでしょう。
 この地域の国際的な水流が、資源を共有すべき人々の間で公平に利用されておらず、また合理的な利用もされていないことは明確です。イスラエル/パレスチナの場合について特に強調できることとして、権力構造こそが両当事者間での国際水流の配分を決定してきたことは明らかです。パレスチナはひどい水不足に見舞われており、そのためにこの地域の経済的社会的開発の遅れを引き起こしています。
 パレスチナの天然資源に対する主権に言及した数多くの国連決議が採択されてきました。しかし、これらの決議どれも実行に移されることはありませんでした。水資源に関してこれまでイスラエルとPLOの間で結ばれた協定は不公正かつ不公平なものであり、危機のための一時的解決策を越えるものでもなければ、持続可能で恒久的な解決策を与えるものでもありませんでした。1995年の暫定自治拡大合意第40条の附則は、パレスチナ人の当面の需要を満たすための水の配分のあり方を扱うものでしたが、公正で合理的な利用原則ということについては全く考慮されていませんでした。この附則は、ヨルダン川西岸地区におけるパレスチナ人の水に関する権利を認めることを強調してはいるものの、それらの権利についての定義がまったくされていませんでした。両当事者の権利および義務を規定する根本原則は確立されず、これらの権利に関する交渉は最終的な地位協定が結ばれるまで先延ばしにされることになりました。第40条は、パレスチナ人の緊急の需要を満たすための追加的な水の供給を決めただけでした。これらは、条項に示されている通り、東滞水層の集水地および他の合意された水源から供給される予定です。
 しかし過去7年間、暫定合意のこの部分についての履行は、一部に限定され、それも、ひどく遅いものでした。共同水委員会での意志決定は一方的で、イスラエルによって支配されていました。パレスチナの事業や計画に対するイスラエルの評価や拒絶を決定する主たる基準は「無害原理」、すなわちイスラエルの水利用に弊害を及ぼす計画は認めないというものでした。その結果、過去6年で、パレスチナ人は、(95年の合意で予定された)8000万立方メートルのうち、たった1200万立方メートルの水供給しか開発できませんでした。
 これらのプロジェクトが現在のイスラエルの水利用に弊害をもたらすという、再三に渡るイスラエルの主張は、合意を履行する際の主な障害でした。イスラエルを水についての交渉の席に着かせることは、パレスチナ人および国際的な仲裁による甚大な努力が必要です。イスラエルは、国際法(ジュネーブ第4条約(1949)など)に規定された、占領国としての義務を無視して、西岸・ガザ地区の中のすべての水資源に対する一方的な管理を継続的に実行してきました。また、この地域での、複数国(地域)で共有されるべき水資源の利用状況は、国際慣習法における公正で合理的な利用という原則を満たすものではありません。現状の継続は国際法の原則に対する明確かつ継続的な違反なのです。
 パレスチナ人とイスラエル人双方に国際法の原則を守ることが強く求められています。1997年の国連の協定(国際水路の航行以外の使用の法令に関する条約、未発効)は将来の合意のためのガイドラインとして役立つものです。この枠組協定は、国際水路の利用、開発、維持、管理そして保護のあり方を規定し、現在そして未来の世代のために、最適かつ持続可能な利用の促進を保障するものであると考えられます。水問題についての最終合意は、複数国(地域)で共有されるべき、様々な水資源について国際協調を可能とする解決策およびメカニズムを含んでいなければなりません。水をめぐる紛争は、現在、平和に対する大きな脅威となっており、それが継続したときにもたらすであろう結果は、イスラエル側にとっても、パレスチナ側にとっても受け入れられるものではないのです。

7.さらに知りたい方のために

参考サイトリンク集は、Web版をご覧下さい。


パレスチナにおける水問題
2003年3月16日発行
資料提供:パレスチナ国際問題研究学術協会(PASSIA)
翻訳/構成:役重善洋
発行:パレスチナの平和を考える会