パレスチナの平和を考える会

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パレスチナの人権NGO、入植地ビジネスに関するホンダ宛書簡を公開

パレスチナの人権NGOが、パレスチナ被占領地におけるビジネスに関して本田技研工業に送付した手紙を公開しました。

2018年2月、ホンダ・イスラエルがイスラエル入植地で予定していたレースイベントが、私達の働きかけを含めた国際的な批判を受けた結果、中止されたというニュースは、海外メディアでも広く報道されました。

この件については、パレスチナの代表的な人権NGOであるアル・ハックも注目しており、2月20日に本田技研工業(以下、ホンダ)の八郷(はちごう)社長宛に手紙を送付しています。その内容は、レースイベントの中止決定を歓迎するとともに、同社のイスラエルにおけるパートナー企業であるMayer's Cars and Truck社(以下、Mayer's社)が複数の入植地ビジネスに関与していることを指摘し、同社とのビジネス継続について再考を促すものです。

手紙送付から2か月以上経過した段階でホンダの回答がなかったため、アル・ハックは、手紙の公開に踏み切りました。以下はその日本語訳となります。

なお、ホンダは、当会を含む市民団体の連名で出した要請書に対しては回答していますが、そこでも、Mayer's社との契約に基づくイスラエルにおける事業について「現地法令を遵守し適正に行われている」とするのみで、国際法の遵守については言及を避けています。
イスラエル入植地におけるレースイベントに関する要請書に対する本田技研工業株式会社からの回答

アル=ハック
パレスチナ被占領地におけるホンダの活動に関して

本田技研工業株式会社
代表取締役社長CEO
八郷隆弘様

2018年2月20日
ラマッラー

被占領地パレスチナにおけるホンダの活動に関して

八郷様

私は、パレスチナ被占領地(OPT)の人権と法治を守り、促進するための独立系パレスチナ人権団体、アル=ハックの事務局長としてこの手紙をしたためます。アル=ハックは、イスラエル・モータースポーツ協会とホンダ・イスラエルによって主催、宣伝されていた「ホンダが国際レース場経験にご招待!」と銘打ったイベント、ロードレース世界選手権会場を、市民社会からの要請を受けて変更したことを歓迎します(注1)。このロードレース世界選手権は、ヨルダン渓谷にあるパレスチナ被占領地内にある違法なイスラエル入植地、ペツァエルで開催されることになっていましたが、開催地が南イスラエルのアラドに変更になり、これもまた中止となったものです。

注1:Urgent Request: Do not Participate in Illegal Settlement Business in Palestine "Honda"!, 13 February 2018, available at: 緊急要請:「ホンダ」はパレスチナにおける違法な入植地ビジネスに加担しないでください!

とはいえ、アル=ハックは、1989年よりイスラエルにおけるホンダの正式なフランチャイズ代理店であるMayer's Cars and Trucks社とホンダの関係について指摘したいことが2点あります(注2)。ホンダがフランチャイズ元として(このビジネスに)直接関わっていることは、パレスチナ被占領地における人権と人道法を犯す共犯であるという重大なリスクを負っています。第一に、Mayer’s Cars and Trucks社は、エルサレムの北にある入植地内のAtarot工業地区にDiesel Atarotという自動車修理工場を経営しており、これはホンダが認可しているトラック修理サービス工場でもあります。第二に、Mayer's Cars and Trucks社はVolvo社が所有しているイスラエルのバス製造会社最大手のひとつ、Merkavim交通テクノロジー社の主要株主でもあります(注3)。後者はイスラエル人入植者の交通手段として使われる装甲バスの製造会社であり、被占領地とイスラエル間を結び、民間人を乗せて運ぶという違法行為に直接加担しています。これは第四次ジュネーブ条約の第49条と追加議定書Iの第85条(4)(a)に違反します。

注2:The Mayor Group
注3:Who Profits, Mayer's Cars and Trucks

同時にまた、イスラエルのヨルダン川西岸における、イスラエル企業及び多国籍企業の受け入れと協力を含む入植地の違法建設と拡大は、保護されている人々の強制立ち退きという結果をもたらしています。これは第四次ジュネーブ条約第49条と国際慣習法に違反しており、ジュネーブ条約の甚だしい不履行と言えます。イスラエルとMerkavim交通テクノロジー社の両者は、国際刑事裁判に関するローマ規程第8条(b) (viii)により戦争犯罪とみなされる可能性もあり、これには個人の犯罪責任も発生します。

国際法の下で、パレスチナ被占領地(OPT)とは、東エルサレムを含む(ヨルダン川)西岸とガザ地区を指します。2016年に承認された国連安全保障理事会決議2334号は、イスラエル入植地の違法性と目に余る国際法違反を再認識させました。このように、入植地における企業の投資やパートナーシップは、入植地ビジネスを支持し、奨励し、収入を生み出すことで繁栄、拡大させ、これが占領を長引かせています。そして結果的に被占領地におけるパレスチナ人の自治と資源やその他の主権に関する基本的権利を否定し(注4)、経済活動の障害となり、発展が後戻りしています。

注4:International Covenant on Civil and Political Rights (ICCPR), Article 1; and International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights (ICESCR), Article 1.

国際法、及び国連のビジネスと人権に関する指導原則に則り、ホンダは紛争地域(OPT)でビジネスを行なう多国籍企業として、営業及び貿易中に人権侵害を防止する方針を打ち出し、国際人道法(注5)と人権法に従わなければなりません。加えて、ホンダは日本でも海外でも、ビジネスを行なう際に適切な配慮をすることが期待されます(注6)。

注5:UN Guiding Principles on Business and Human Rights, 2011, Principle 12, commentary.
注6:United Nations. II.A. The State Duty to Protect Human Rights "Guiding Principles on Business and Human Rights: Implementing the United Nations 'Protect, Respect and Remedy' Framework." 2011

国際法、及び国連のビジネスと人権に関する指導原則に則り、ホンダは紛争地域(OPT)でビジネスを行なう多国籍企業として、営業及び貿易中に人権侵害を防止する方針を打ち出し、国際人道法(注5)と人権法に従わなければなりません。加えて、ホンダは日本でも海外でも、ビジネスを行なう際に適切な配慮をすることが期待されます(注6)。

「企業責任声明」を通して社会貢献の約束と人権への配慮(注7)を表明しているホンダですから、アル=ハックは本田技研工業株式会社とその子会社や系列会社が、イスラエル及びパレスチナ被占領地でMayer’s Cars and Trucks社のような企業とビジネスを行なう際は適切な配慮をして下さるよう要請します。同社は戦争犯罪を含め、パレスチナ被占領地における重大な人権侵害の共犯者である可能性があります。特に、国際社会ではイスラエルとパレスチナ被占領地内の違法な入植地を区別しようという意識が高まっており、識別ガイドラインを作ってそれを守る(注8)、イスラエル入植地内でビジネスを行なう企業、及び入植地と取り引きのある企業をデータベース化する(注9)、といった努力がなされています。アル=ハックは更に、国連のビジネスと人権に関する指導原則に従い、イスラエルの違法な入植地ビジネスに加担するビジネス活動を控えるよう、ホンダに要請します。ホンダがMayer’s Cars and Trucks社とビジネスを継続するのであれば、国際人道法と国際犯罪法を犯す重大な共犯である会社から利益を得ている、という悪評にさらされるリスクがあります。

注7:Honda, Article 2, Corporate Responsibility Statement Last updated on 21 Feb 2018.
注8:European Commission, "Interpretative Notice on indication of origin of goods from the territories occupied by Israel since June 1967" Brussels, 11.11.2015 C (2015) 7834 final
注9:United Nations Human Rights Council. "Israeli settlements in the Occupied Palestinian Territory, including East Jerusalem, and in the occupied Syrian Golan" resolution 31/36 adopted on 24 March 2016. A/HRC/RES/31/3

よろしくご一考のほどお願い致します。
更なる情報が必要な場合は、遠慮なくご連絡ください。

敬具

シャワン・ジャバリン
アル=ハック事務局長

アル=ハック
国際法律家委員会提携団体
ラマッラー、ヨルダン川西岸
Tel: +972-2-2954646
Fax: +972-2-2954903
alhaq.org

原文:Al-Haq Communicates with Honda Regarding its Operations in the Occupied Palestinian Territory

(翻訳・法貴潤子)

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